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シーせんせいへのてがみ
C先生への手紙
宮本 百合子
「年刊多喜二・百合子研究 第2集」多喜二・百合子研究会編、河出書房、1955(昭和30)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,519 字 · 60 页
けれども今はもうすっかり廃跡になって、崩れた舞踏場の傍に、小さい小屋掛けをした老人の山番が、犬を一匹友達にして棲んで居る限りでございます。きっと、金持連の世間から隔った享楽場として、余り大業な騒ぎかたが却って衰退を早めたのでございましょう。今でも腐った軌道や枕木が、灌木や羊歯の茂った阪道に淋しく転って居ります。頂上には、其等の廃跡の外に、一軒不思議な建物があるそうでございます。真四角な石造で、窓が高く小さく只一つの片目のようについて居る、気味が悪いと見た人が申しました。何でございましょう。此間、頂上まで登って見たいと思って切角出かけたのに途中で駄目になって仕舞いました。平地の健脚は、決して石ころの山道で同様の威厳を持ち得ない事を発見致しました。
紐育あたりから遊びに来て居ります人々でも、矢張り私と余り違わない程度と見えて、深い山等へ出かける者は少うございます。従って朝夕、美くしく着飾った女達が、都会に居るよりもっと気取って、もっと富有らしい歩調で散策する距離は、僅か一哩半位の、村道に限られて居るような形でございます。其の古い楓が緑を投げる街路樹の下を、私共は透き通る軽羅に包まれて、小鳥のように囀りながら歩み去る女を見る事が出来ます。