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ディーざかのさつじんじけん

D坂の殺人事件

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页

青空文庫

ですが、その男は確かに白い着物を着ていました。縞も模様もない、真白な着物です」

「それは変ではありませんか。君達の内どちらかが間違いでなけりゃ」

「決して間違いではありません」

「僕も嘘は云いません」

この二人の学生の不思議な陳述は何を意味するか、鋭敏な読者は恐らくあることに気づかれたであろう。実は、私もそれに気附いたのだ。併し、裁判所や警察の人達は、この点について、余りに深く考えない様子だった。

間もなく、死人の夫の古本屋が、知らせを聞いて帰って来た。彼は古本屋らしくない、きゃしゃな、若い男だったが、細君の死骸を見ると、気の弱い性質と見えて、声こそ出さないけれど、涙をぼろぼろ零していた。小林刑事は、彼が落着くのを待って、質問を始めた。検事も口を添えた。だが、彼等の失望したことは、主人は全然犯人の心当りがないというのだ。彼は「これに限って、人様に怨みを受ける様なものではございません」といって泣くのだ。それに、彼が色々調べた結果、物とりの仕業でないことも確められた。そこで、主人の経歴、細君の身許其他様々の取調べがあったけれど、それらは別段疑うべき点もなく、この話の筋に大した関係もないので略することにする。