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ディーざかのさつじんじけん
D坂の殺人事件
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页
外の道具などは何もない。一体彼はこの部屋でどうして寝るのだろうと疑われる程だ。第一、主客二人の坐る所もない、うっかり身動きし様ものなら、忽ち本の土手くずれで、圧しつぶされて了うかも知れない。
「どうも狭くっていけませんが、それに、座蒲団がないのです。済みませんが、柔か相な本の上へでも坐って下さい」
私は書物の山に分け入って、やっと坐る場所を見つけたが、あまりのことに、暫く、ぼんやりとその辺を見廻していた。
私は、かくも風変りな部屋の主である明智小五郎の為人について、ここで一応説明して置かねばなるまい。併し彼とは昨今のつき合いだから、彼がどういう経歴の男で、何によって衣食し、何を目的にこの人世を送っているのか、という様なことは一切分らぬけれど、彼が、これという職業を持たぬ一種の遊民であることは確かだ。強いて云えば書生であろうか、だが、書生にしては余程風変りな書生だ。いつか彼が「僕は人間を研究しているんですよ」といったことがあるが、其時私には、それが何を意味するのかよく分らなかった。唯、分っているのは、彼が犯罪や探偵について、並々ならぬ興味と、恐るべく豊富な知識を持っていることだ。