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ディーざかのさつじんじけん

D坂の殺人事件

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年1月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,072 字 · 44 页

青空文庫

ヘイ」

「どこへ夜店を出すんだね」

「よく上野の広小路へ参ります様ですが。今晩はどこへ出ましたか、どうも手前には分り兼ねますんで。ヘイ」

「一時間ばかり前に、何か物音を聞かなかったかね」

「物音と申しますと」

「極っているじゃないか。この女が殺される時の叫び声とか、格闘の音とか……」

「別段これという物音を聞きません様でございましたが」

そうこうする内に、近所の人達が聞伝えて集って来たのと、通りがかりの弥次馬で、古本屋の表は一杯の人だかりになった。その中に、もう一方の、隣家の足袋屋のお神さんがいて、時計屋に応援した。そして、彼女も何も物音を聞かなかった旨陳述した。

この間、近所の人達は、協議の上、古本屋の主人の所へ使を走らせた様子だった。

そこへ、表に自動車の止る音がして、数人の人がドヤドヤと入って来た。それは警察からの急報で駈けつけた裁判所の連中と、偶然同時に到着したK警察署長、及び当時の名探偵という噂の高かった小林刑事などの一行だった。――無論これは後になって分ったことだ、というのは、私の友達に一人の司法記者があって、それがこの事件の係りの小林刑事とごく懇意だったので、私は後日彼から色々と聞くことが出来たのだ。