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ヒューマン ロスト
HUMAN LOST
「新潮」1937(昭和12)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,769 字 · 24 页
」用心のニヤニヤ笑いつづけながらも、少し首肯く。「愚なる者よ。きみ、人その全部の努力用いて、わが妻子わすれむと、あがき苦しみつつ、一度持たせられし旗の捨てがたくして、沐雨櫛風、ただ、ただ上へ、上へとすすまなければならぬ、肉体すでに半死の旗手の耳へ、妻を思い出せよ、きみ、私め、かわってもよろしゅうございますが、その馬の腹帯は破れていますよと、かの宇治川、佐々木のでんをねらっていることに、気づくがよい。名への恋着に非ず、さだめへの忠実、確定の義務だ。川の底から這いあがり、目さえおぼろ、必死に門へかじりつき、また、よじ登り、すこし花咲きかけたる人のいのちを、よせ、よせ、芝居は、と鼻で笑って、足ひっつかんで、むざん、どぶどろの底、ひきずり落すのが、これが、リアルか。」かれ少し坐り直して、「リアルとは、君の様に、針ほどのものを、棒、いや、門柱くらいに叫び騒がずして、針は、針、と正確に指さし示す事なり。」「愚かや、君は、かの認識の法を、研究したにちがいない。また、かの、弁証法をも、学びたるなるべし。われ、かのレクチュアをなす所存なけれど、いまの若き世代、いまだにリアル、リアル、と穴てんてんの青き表現の羅紗かぶせたる机にしがみつき、すがりつき、にかわづけされて在る状態の、『不正。