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ヒューマン ロスト

HUMAN LOST

太宰 治

「新潮」1937(昭和12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,769 字 · 24 页

青空文庫

』に気づくべき筈なのに、帰りて、まず、唯物論的弁証法入門、アンダラインのみを拾いながらでもよし、まず、十頁、読み直せ。お話は、それから、再びし直そう。」かく言いて、その日は、わかれた。

リアルの最後のたのみの綱は、記録と、統計と、しかも、科学的なる臨床的、解剖学的、それ等である。けれども、いま、記録も統計も、すでに官僚的なる一技術に成り失せ、科学、医学は、すでに婦人雑誌ふうの常識に堕し、小市民は、何々開業医のえらさを知っても、野口英世の苦労を知らぬ。いわんや、解剖学の不確実など、寝耳に水であろう。天然なる厳粛の現実の認識は、二・二六事件の前夜にて終局、いまは、認識のいわば再認識、表現の時期である。叫びの朝である。開花の、その一瞬まえである。

真理と表現。この両頭食い合いの相互関係、君は、たしかに学んだ筈だ。相剋やめよ。いまこそ、アウフヘエベンの朝である。信ぜよ、花ひらく時には、たしかに明朗の音を発する。これを仮りに名づけて、われら、「ロマン派の勝利。」という。誇れよ! わがリアリスト、これこそは、君が忍苦三十年の生んだ子、玉の子、光の子である。

この子の瞳の青さを笑うな。