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Sふじんへのてがみ
S夫人への手紙
岸田 国士
「時事新報」1948(昭和23)年4月1、2、3日、5月3、4、5日、6月18、19、20日、7月12、13、14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,921 字 · 30 页
使い分けという言葉を日本人はすぐに妙な意味にとりたがります。それが合理的である限り、自己偽マンも、裏切りも、日より見もないはずです。
たゞ、時と場あいによつて、使い分けに非常な勇気と忍耐とがいることがあります。また、どうかすると、二者のいずれかを選ばねばならぬジレンマに陥ることもないとは限りません。決断が物を言うところです。自分の所属するある団体との訣別がそれです。
この間の消息をとくと胸に畳んでおかぬと、すべての行動は、社会人としての常軌を脱し、人間としての信頼を失うことになるわけです。圧迫は常に正しいものの上にありという感傷的英雄主義を警戒してほしいものです。
学生の話が出ましたから、ついでに、ついせんだつて一部の話題になつた「薔薇座事件」について、小生のふと頭に浮んだことをお話してみます。これは、誰かれの名前を強いて出すほどのことでもありませんが、多分あなたはご存じないかもしれぬ東京の一劇団が、ある作家の脚本を上演したところ、登場人物たる某私立大学生の生活が、他の一官立大学生のそれに比して、あまり立派でない、どちらかといえば軽々しい風俗として描かれてあつたために、その私立大学の学生たちから劇団および作者に対して厳重な抗議が出たという話です。