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Sふじんへのてがみ
S夫人への手紙
岸田 国士
「時事新報」1948(昭和23)年4月1、2、3日、5月3、4、5日、6月18、19、20日、7月12、13、14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,921 字 · 30 页
それについて思い出すのは、たしか、夫君もご生存中でしたが、あなたの奇抜な質問に小生たちが苦しい答えをしたことがありましたね。それは、あなたが、「地震、雷、火事、おやじ」という日本のことわざをひいて、小生たちに、それが現在でも実感として通用するかどうかをおたずねになつたのです。夫君はさすがに科学者らしく、「ことわざはことわざにすぎないさ。しかし、何十年に一度か二度というくらいの地震から毎日顔をつき合せているおやじまでをひとつなぎにして、人間の多少もてあましている恐怖感を音階式に、語ろよく言い放したところに、現在でも面白味はある」というような批判的答弁をされたのに対して、小生は、まつこうから、「日本人として今でも実感でそれを感じないとは言えない。このことわざは、結局おやじの専制ぶり、暴君ぶり、高圧的態度を、半ばあきらめと、半ばヤユとをもつて諷したものだが、一面から言うと、われわれにとつてはまるで日常茶飯事のように起るこれら自然の脅威とならべて、おやじの一喝をやはり多少不可抗力とみながら、実は、どこかで、それらに共通した男性的な性格を痛快がつているところがある。