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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ

The Affair of Two Watches

谷崎 潤一郎

「新思潮」1910(明治43)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页

青空文庫

起きねえと承知しねえから。」

一体親父は口が粗暴でいけない。どうせ米屋町の相場師だから上品な訳はないが、これでは車夫か馬丁の口調だ。

此の台辞の間に、ふとんの上から足で私の体を揺すぶったり、或は上の夜具を一枚まくったりする所作が入る。それでも私が起きずに居ると、仕方なしに、「起きねえと承知しねえぞ。」と今度は「ぞ」の字を使い、多少調子の変った捨台詞で下りて行く。

但し、此の際私が柔順に起きれば文句なしだが、子供と違って二十三四にもなると相応に威厳とか格式とか云うものを保ちたがるので、こうして見ればオイソレと手軽に起きる事が出来ない。まさか此の辺の道理の解らぬ親父でもなかろうから、私は時々親父の真意の存する所を疑って、此れは屹度、もっと寝て居るがよいと云う謎に違いないと解釈する。多分此処辺の推察が穏当な所だろう。

要するに其の真意は孰れにもせよ、親切が仇となって私は早起が出来ない。それ故親父の気が付かない中に起きて了えばいゝのだが、又運悪く親父が階段を駈け上ろうとする刹那、私は起きたいと云う気持になる。両者常に間髪を入れない。実に際どい所で起き損って私も残念で堪らぬ。