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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ

The Affair of Two Watches

谷崎 潤一郎

「新思潮」1910(明治43)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页

青空文庫

「ロクゾー」を繰り返して果てしがないから、「フン」と鼻で答えると、矢張「ロクゾー」を続ける。こうして五六遍相呼応するが、母親も黙らなければ私も起きない。すると今度は一段甲高い調子で、

「さっさと起きないかッたら、何してるんだい。ふんとにもう何時だと思うんだ。九時過ぎじゃないか。片附かないで仕様がありゃしない。おみよつけも何もさめちまわア。ふんとにまああろうかしら、働き盛りの奴が晝過ぎ迄ッつも寝てるなんテ、能くそれで大学生でございッて云われたもんだ。」

此の長々しい叱言が、母親の口から出て階段を駈け上り、寝惚けた私の耳へ口惜しそうに喰い付くだけなら料簡も出来るが、壁一重のお隣に住んで居るお琴さんにまで聞えるかと思うと、ちっとやそっとの恨みではない。何の事はない、母親は自分の口の粗暴な事と、堕落書生の忰を持った事を、近所合壁へ出来るだけ仰山に、出来るだけ廣く、あらん限りの声を絞って吹聴するに止まる。それでも母親は二階へは上って来ない。実はこの前二三度例の如く母親が「ロクゾー、ロクゾー」とやってる間に、「フム、フム」と故意と寝惚声の生返辞をしながら大急ぎで起き上って蒲団を畳み、着物を着換え、澄まし込んで机に向って居ると、其れと知らず母親は「よし、よし、蒲団をまくってやるから。