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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ

The Affair of Two Watches

谷崎 潤一郎

「新思潮」1910(明治43)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页

青空文庫

その哲学者面を砂塵がサーッと吹きつけて通った後では、確かに二三人は消えて失って居るだろう。

杉に原田に私―――今日も亦三人落ち合って正門を出た。例の如く、「金が欲しい、飲みたいなあ」と云う言葉が三人の鼻先に恐ろしい程明瞭にブラ下って居たが、誰もそんな事は噫と一緒に噛み殺し、何食わぬ顔でたわいもない冗談ばかり云い合って居た。其の癖喋りながら銘々相応に達者な神経を働かせて、対手の懐を読んで見たが、念入りに揃いも揃って文なしらしかった。こう云う際に一人でも金を持って居たら外の二人が寄ってたかって、貸したものを取るような勢で奢らせずには措かないのだから、少しでも懐の暖かい奴の顔には一種の恐慌が表れて居なければならない筈なのだ。で、若し飲もうと云い出して誰も金がないとなると猶更悲惨になるから、三人申し合わせたようにジッと我慢をし抜き、成る可く現実隠蔽の悲哀の近所へは近寄らぬようにして、ヤケに笑ったり喋ったりしながら歩いた。けれども其の笑顔すら時々寒風に衝突って哀れにひしゃげた相好に変った。こうなると我々は素晴らしい警句が口をついて出る。そして警句が出れば出る程、忘れる筈の一件が矢鱈無上に込み上げて、いくら振り落そうと藻掻いても始末に悪い事になるのだ。