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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ

The Affair of Two Watches

谷崎 潤一郎

「新思潮」1910(明治43)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页

青空文庫

親父は相場師の癖に、女を買わず、借金をせず、嘘を言わず、極めて融通のきかない所を誇りとして居る。日曜には家へ引っ込み、朝から寝ころんで「禅の妙機」と云う本を二三頁読み出すかと思うと、忽ちトロ/\となって終に終日晝寝をする。たま/\陽気の加減で気が触れたように襦袢一枚になり、

「ハテ此処のたてつけが甘えようだが。」

などゝ家中をガタピシいじり散らかし、襖を取り外したり、木戸を打ッ倒したり、鋸や鉄槌を引きずり出して、頭から鉋屑を浴びながら騒ぎ廻る事もある。そう云う晩には、

「あゝ今日は好い運動をした。何か旨えものでも食うかな。」

と、「簡易西洋料理法」とある書物を参照して、自ら台所へ出馬に及び、シチュウ、ビフテイキの類を拵えては我々に御馳走しながら、チビリチビリ晩酌を傾ける。

いつであったか、新聞の三面に「出歯亀倶楽部」と云う標題で、「近頃出歯亀倶楽部と称する色魔の徒輩小間物化粧品を売り歩く商人体に姿を変えて市中を徘徊し、女主人の家と見れば如才なく取り入りて彼等得意の奸手段に乗せ遂には怪しき関係を結び云々。」と云う記事の見えた時の事。ある日の夕方萌葱風呂敷を担いだ書生体の男が格子戸をあけて、