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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ
The Affair of Two Watches
谷崎 潤一郎
「新思潮」1910(明治43)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页
「えゝ奥様はお出でゞございましょうか。手前は苦学生でございますが、何かお石鹸香水の類に御用がございましたらお購求を願います。」
とやり出すと、奥で晩飯を食って居た親父は、俄然箸を投り出してツカ/\と玄関へ立ち上り、胡散臭さそうにジロジロ男の風体を窺って、
「要りませんよ、そんなものは。」
と、如何にも突ッ慳貪にピシャリと障子を立て切って了った。面喰った苦学生はそこ/\に逃げて行ったが、親父はまだ眼を怒らし、せい/\息をはずませて、
「奥様はお出でゞございましょうか、なんて云やがって怪しい野郎だ。………新聞に出歯亀倶楽部と云うのが出て居るから、皆も気をつけねえといけねえぞ。」
こう云って独りで憤慨して居た。親父のする事は凡べて斯くの如く愛嬌に富んで居る。
さて、今朝は平常よりも更に遅れて、学校へ行ったのが丁度午頃、文科は一般に出缺の取締りが厳重でないからいゝようなものゝ、私ほどズボラな学生は珍しい。
原田が今日の午前中に例の質物で五圓拵えて来る約束だから、早速控所へ行って見ると、原田と杉とがストーブへあたりながら弁当を食って居る。
「どうだい。五圓になったかい。」