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“しきけんはつどう”をかかざるのき
“指揮権発動”を書かざるの記
犬養 健
「文藝春秋」文藝春秋新社、1960(昭和35)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,319 字 · 19 页
こう言って、最近打ち合わせのために訪欧旅行の帰途の河野氏を南方まで出迎えに行った森君は、日焼けした健康そうな腕で大きな籠を持ちあげて私のベッドの上に置いていった。
ところが、この森君と入れ違いの形で、検察関係のある長老から電話がかかって来た。この長老はいつも私の健康を気づかって見舞を欠かさずにしている人であるが、
「その後ご無沙汰しておりますが、今日は久しぶりでお見舞かたがた、もしも世間の噂が本当ならば、指揮権の原稿の内容についてお打ち合わせをしたいのですが」
ということであった。これにはさすがに私も驚いたが、厚く礼を述べたうえ、事実無根のことを力説しておいた。が、私がしみじみ思うのに、あと十年も経って、当時の関係者が全部現役から退いたあげくの日に、長い間の冤を雪ぐのは誰であろうかと想像してみると、やはりそれは花井前検事総長と清原現検事総長の二人であろうと考えた。そして私は共々に苦労の多かったあの時代のことを今さらに振り返った。
実をいえば、この問題では世間の人は見当を違えているのである。なるほど当時の佐藤栄作氏はその立場上まずいことも相当あったであろう。