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“しきけんはつどう”をかかざるのき

“指揮権発動”を書かざるの記

犬養 健

「文藝春秋」文藝春秋新社、1960(昭和35)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,319 字 · 19 页

青空文庫

また検察当局としても、あれはどうしても捜査しなければならぬ筋合の事件であったろう。が、それは決して古今未曾有の奇怪事という性質のものではなかった。日本の政党が党員の浄財によって賄われない限り、誰しも党の幹事長や書記長になれば、佐藤氏程度のまずさは時おり生れるはずのものなのである。そしてこれはひとり自民党ばかりではない。社会党における総評の関係も、民社党の西尾氏における社会各層の西尾ファンの関係も、いってみれば五十歩百歩の差に過ぎない。

ところがあの事件に関する限り、古今未曾有の奇怪事――すなわち二度とあってはならない奇怪事は、実は別の点にあったのである。それは他でもない。当時検察庁に対して大きい勢力を持っていた某政治家が、法務大臣たる私や検事総長たる佐藤藤佐氏を差しおいて庁内のある有力者を吉田首相の身内の一人に近づかせ、「自分の推薦する者を検事総長に任命すれば指揮権発動ぐらいのことは必ず断行させてみせる」と豪語して、ひそかに首相の周囲に指揮権発動の可能性なるものを入れ智恵する一方、検察庁内のある上級幹部にも働きかけてその秘密会議の席上、「断乎佐藤栄作を起訴すべし」