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ああぎょくはいにはなうけて

ああ玉杯に花うけて

佐藤 紅緑

「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页

青空文庫

千三はいくどもいくども滑ったので身体はどろだらけになった、その他の人々も同様であった。

やがて審判者がおごそかに宣告した。

「プレーボール!」

浦中は先攻である。黙々の投手五大洲ははじめてまん中にたった、かれは十六歳ではあるが身長五尺二寸、投手としてはもうしぶんなき体格である、かれは手製のシャツを着ていた、それは白木綿で母が縫うてくれたのだが、かれはその胸のところに墨黒々と片仮名で「モクモク」と右から左に書いた。かれがこれを着たとき、すずめがそれだけはよしてくれといった、かれは頑としてきかない。

「おれは日本人だから日本の文字のしるしを書くんだ、毛唐のまねなんか死んでもしやしないよ」

これをきいて黙々先生は感歎した。

「松下! おまえはいまにえらいものになるよ」

見物人はいまかれの胸の片仮名を見て一度にどっとわらった。

「やあい、モクモク」

「モクネンジンやあい」

「モク兵衛やあい」

だがかれは少しもひるまなかった、かれの鉄砲のごとき速球はまたたく間にふたりを三振せしめた、つぎは柳光一である。光一はボックスに立ってきっと投手を見やった、かれは速球に対して確信がある。