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ああぎょくはいにはなうけて
ああ玉杯に花うけて
佐藤 紅緑
「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页
と光一は背後を向いていった。が人の姿は見えない。菜の花畑の間や肥料小屋の間からさかんにつぶてが飛んでくる。
「卑劣なやつだ、でてこい」
かれはこういいながら八方を睨んだ。そうしてふたたび文子の方を見やると文子の姿はもう見えない。
「しまった、どこへ逃げたろう」
かれは血眼になってさがした。もうつぶては飛んでこないが、お宮の境内はしんとして人の音もない。風が出て松のこずえをさらさらと鳴らした。こまかい葉の影のところどころに春の日がこぼれたように大地に光っている。光一はお堂の前にでた。そこの桜の下に千三が立っている。光一は赫とした。かれは野猪のごとく突進した。
「おい、チビ!」とかれは叫んだ。千三はおどろいて顔をあげた。かれはいま石獅子の写生をしていたのであった。
「やい、きさまはおれをだましたな、きさまはおれの妹をきさまは……きさまは……」
あまりにせきこんだので光一の声が喉につまった。千三はあきれて目をきょろきょろさせた。かれは光一がいたずらにこんなことをいってるのだと思った。
「やい、きさまはここでなにをしてるんだ」
「ぼくは高麗犬の写生をしてるんだよ、どうもね、一つの方が口をあいて一つの方が口をしめてるのがふしぎでならねえ」