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ああぎょくはいにはなうけて

ああ玉杯に花うけて

佐藤 紅緑

「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页

青空文庫

と千三はいった。

「なにがふしぎだ、きさまがここにいる方がよっぽどふしぎだ、ばかやろう!」

「きみは本当にそんなことをいってるのか」と千三は改まった。

「あたりまえだ、きさまはおれの妹を誘惑したろう」

「ぼくが!」

「あそこの松のところで妹と話をしていたのだ、それをおれが見た、きさまから妹にやった手紙も見た、知らないとはいわせないよ、ばかッ」

「おい柳! どうしたというんだ、ぼくがきみの妹を? きみ! きみ! それは嘘だ、とんでもないことだ、きみ、誤解しちゃいけないよ」

「白ぱっくれるなよ、おれには証拠がある」

「じゃ証拠を見せたまえ」

「証拠はこれだ」

光一は拳骨を固めて千三の横面をなぐった。あっと千三は頬に手をあてた。かれは火のごとく顔を赤くしたがやがて目に一ぱいの涙をためた。

「きみはぼくをなぐったね」

「無論だ、文句があるならかかってこい」

「柳君!」と千三は光一の腕をとった。「きみは後悔するぞ、きみはぼくをそんな人間だと思っていたのか、きみは……」

「なにを? 生意気な」

光一は千三を横に払った。千三は松の根につまずいて倒れた。筒袖の袷にしめた三尺帯がほどけて懐の写生帳が鉛筆と共に大地に落ちた。