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あそび
あそび
「三田文學」1910(明治43)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,358 字 · 21 页
」
「ふん」と云って、小川は変な顔をして、なんと思ったか、それきり電車を降りるまで黙っていた。
小川に分かれて、木村は自分の部屋の前へ行って、帽子掛に帽子を掛けて、傘を立てて置いた。まだ帽子は二つ三つしか掛かっていなかった。
戸は開け放して、竹簾が垂れてある。お為着せの白服を着た給仕の側を通って、自分の机の処へ行く。先きへ出ているものも、まだ為事には掛からずに、扇などを使っている。「お早う」位を交換するのもある。黙って頤で会釈するのもある。どの顔も蒼ざめた、元気のない顔である。それもそのはずである。一月に一度位ずつ病気をしないものはない。それをしないのは木村だけである。
木村は「非常持出」と書いた札の張ってある、煤色によごれた戸棚から、しめっぽい書類を出して来て、机の上へ二山に積んだ。低い方の山は、其日々々に処理して行くもので、その一番上に舌を出したように、赤札の張ってある一綴の書類がある。これが今朝課長に出さなくてはならない、急ぎの事件である。高い方の山は、相間々々にぽつぽつ遣れば好い為事である。当り前の分担事務の外に、字句の訂正を要するために、余所の局からも、木村の処へ来る書類がある。