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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいななかん)

あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)

宮本 百合子

「宮本百合子選集 第七巻」安芸書房、1948(昭和23)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,204 字 · 3 页

青空文庫

ほこりをかぶった樽の栓がぬかれた。樽はむせび鳴りながら自身のなかみをほとばしらせた。日光にきらめき、風にしぶきながら樽からほとばしる液体は、その樽の上に黒ペンキでおどかすようにかきつけられていたPoison――毒ではなかった。液汁は、芳醇とまではゆかないにせよ、とにかく長年の間くさりもしないで発酵していた葡萄のつゆであった。

「播州平野」と「風知草」とは、作者が戦争によって強いられていた五年間の沈黙ののちにかかれ、発表された。主題とすれば、一九三二年以来、作者にとってもっとも書きたくて、書くことの出来ずにいた主題であった。この二つの作品は、日本のすべての人々にとって忘却することのできない治安維持法と戦争のために犠牲とされた理性と善意のために捧げられる。生けると死せるとにかかわらず、この二つの悪虐な力によって破壊を蒙った人間性の恢復と未来の勝利のためにささげられる。二つの作品には自然発生的な萌芽として、新しい日本の人民生活の文学の端緒と、現代文学が私小説から脱却してゆく可能の方向及びこれからの日本文学が実質的に世界文学の領野に参加し、そこでになってゆくべき現実の性格などについて、示唆をふくんでいる。