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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいじっかん)

あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)

宮本 百合子

「宮本百合子選集 第十巻」安芸書房、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,796 字 · 18 页

青空文庫

をかざして、一方に擡頭しつつあるファッシズムとその文学の警戒すべき本質をさとらずに、右にも左にもわずらわされない「自由な自意識の確立」に歓声をあげていた情況は、まざまざとうつされている。天皇制の「非常時」専制があんまり非人間的で苦しく、重圧にたえることに疲れたプロレタリア作家のある部分も「自由な自意識の確立」に魅惑された。この当時の状態をよむ人は計らず太宰治の生涯と文学とに対して、民主主義文学の陣営から、含蓄にとみながらその歴史性を明確にした批評が出ることの意外にすくなかったことを思い合わされはしないだろうか。

当時小説の神様のように眺められていた横光利一のこの「自由な自意識の確立」論の水源は、「マルクシズムという実証主義の精神」に「突きあたって跳ねかえったものなら、自由というものは、およそどんなものかということぐらい知っていなくちゃ、もうそれは知識人とはいえないんだ」というところにあった。そしてその自由というのは「自分の感情と思想とを独立させて、冷然と眺めることのできる闊達自在な精神なんだ」といわれている。ここから、当時文学青年の間に大流行をきわめた横光の観念的な心理主義が生れた。