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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいじっかん)
あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)
宮本 百合子
「宮本百合子選集 第十巻」安芸書房、1949(昭和24)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,796 字 · 18 页
こんにち、いくらかひろげられている発言の範囲で考えると、当時論じられた日本の転向の問題は論法のすべてを一貫して、観念的な傾きがつよく見られる。日本の治安維持法は、マルクシズムを放棄させ、運動から離脱することを要求したばかりでなく、更にすすんでその人がファッシズムに従うように強制した。マルクシストであったものこそファシストになるべきとされた。ここに、おどろくべく深い人間精神虐殺の犯罪性の一つがひそんでいる。転向して生を守ろうと欲する人は、自分にも他人にも顔向けのできない思いで、うそをつき、仮面をつけて、現れなければならない。ここに転向というモメントから、多くの人々の精神が生涯の問題としてむしばまれ、根本から自主性を失って、マルクス主義者でなかったものより善意を歪められ卑屈にさせられて行った本質がある。
「冬を越す蕾」は、治安維持法のこのような非道さにふれていない。それはなぜだったろう。奴隷の境遇とその言葉が、ここにある。治安維持法に抵抗しつつ、その悪法について正面から発言できるものは、当時の日本の民衆の間にはおそらくいなかったのであるまいか。獄中で、非転向で、生命を賭してたたかっていた人々のほかには。