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あなたもわたしも

あなたも私も

久生 十蘭

「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页

青空文庫

愛一郎が久慈という家の留守にはいりこんだのは、神月か、愛一郎の死んだ母に関係のあることではなかったのか。

「飯島の久慈さんっていう家、ごぞんじ?」

「久慈って、神月の別荘のあとへはいったひとでしょう。それが、どうしたというの?」

深入りしそうになったので、サト子は、あわててハグラかしにかかった。

「それにしても、古い話だわねえ……神月さん、いま、なにをしていらっしゃるのかしら?」

「ずいぶん年をとったけど、むかしどおりの粋人よ……追放解除になったあと、することがないもんだから、渋谷の松濤の大きな邸でショボンとしているわ。秋川が、毎月、生活費を送っているの」

「秋川さん、神月と親戚なの?」

カオルは、底意のある皮肉めかした口調で、

「親戚?……ふふ、ある意味ではね……細君が死んでから、秋川は事業から手をひいてしまったけど、手元に動かせる金を持っていることでは、日本一でしょう。神月としては、秋川の友情にたよるほか、生きる道はないんだから、どうされたって、離れないつもりでいるらしいわ」

サト子が階下の客間へ戻ると、カオルもついてきて、向きあうソファにおさまった。

近くの山隈で、うるさいほど小寿鶏が鳴く。