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あのころ

あのころ

上村 松園

――幼ものがたり――

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,743 字 · 10 页

青空文庫

葉茶屋の家号を「ちきり屋」と名づけたのは、祖父がつとめていた呉服屋の家号をもらってつけたのかもしれません。

もっとも葉茶屋に「ちきり屋」というのはむかしからよくある名だそうですから、べつだん呉服商の「ちきり屋」にチナまなくともつけられたのではありましょうが……

今でも寺町の一保堂あたりにいぜんの面影が残っていますが、私の家の店は表があげ店になっていて、夜になるとたたんで、朝になると下へおろし、その上に渋紙を張った茶櫃を五つ六つ並べておきます。

店の奥には棚ものといって上等のお茶を入れた茶壺がたくさんならんでいました。

私は子供のころから――さよう、五つの頃から絵草紙をみたり、絵をおもちゃ描きしたりすることが好きで、店先のお客さんの話を聞きながら、帳場の机に坐りこんで、硯箱の筆をとり出しては、母のくれた半紙に絵ばかりかきつけていました。

いつ来ても絵ばかりかいているので、お客さんはよく笑いながら、母に、

「あんさんとこのつうさんは、よほど絵がすきとみえて、いつでも絵をかいてはるな」

と、言っていたのを憶えている。

店へ来る画家の人で、桜花の研究家として名をとっていた桜戸玉緒という方が、極彩色の桜の絵のお手本を数枚下さって、うまくかけよ、と言ったり、南画を数枚下さって、これを見てかくとええ、などとはげまして