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あるニュー・フェイスへのてがみ

あるニュウ・フェイスへの手紙

岸田 国士

「演劇 第一巻第一号~第七号」1951(昭和26)年6月1日~12月1日、「演劇 第二巻第一号~第二号」1952(昭和27)年1月1日~2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,146 字 · 96 页

青空文庫

エルヴィユ作「炬火おくり」のサビイヌに扮したレジャンヌ夫人の驚くべき自然さ、程よきうるおい、匂うような知性、そして、清潔な情熱のほとばしりを見ました。またとない感動です。が、ここに僕は、はっきり、彼女の天才というよりはむしろ、磨きあげられた才能を発見したように思いました。いや、才能などというものは表面には露わに見えていません。それは、四十に近い中流家庭の主婦です。一人の娘の母親であり、一人の老婆を母にもつ娘です。彼女は、平凡な母、世間並の娘、そしてまだ色香の失せぬ未亡人であるにすぎない。エゴイスチックな愛情のために、苦しみ、悶え、はては、娘と母と誠実な求婚者とを同時に失う不幸な女の役です。脚本は評判にはなったが、たいしたものではなく、僕も、昔、翻訳したことを後悔しているくらいですが、この芝居は、たしかに舞台では、大成功をおさめました。サビイヌがすばらしかったからです。レジャンヌ夫人が、作者のイメージにまさる「魅力ある」人物を創造したからです。

僕は、この芝居を観て、しばらく、レジャンヌ夫人の姿が眼にちらついて離れませんでした。まったくのところ、女優としては、むしろ例外に属するくらい美人の型からは外れている、もう隠退を伝えられているほどの年でした。