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あるふゆのばんのこと
ある冬の晩のこと
小川 未明
「婦人倶楽部」1928(昭和3)年4月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,140 字 · 9 页
橋のそばに、一人のみすぼらしいふうをした女が、冷たい大地の上へむしろを敷いて、その上にすわり、粗末な三味線を抱えて唄をうたっていました。
あちらにともっている街燈の光が、わずかに、寒い風の吹く中を漂ってきて、この髪のほつれた、哀れな女を、闇のうちに、ほんのりと浮き出すように照らしているばかりなので、顔もはっきりとわからなかったが、どうやら女は両方の目とも見えなかったようです。
多くの人々は、いろいろの運命に支配されるのでした。だれも、自分の未来についてわからなければ、また、他人の生活についても、わかるものでありません。ただ、この哀れな女が、ひとりぼっちになって、この橋のたもとにすわって三味線を弾き、前を通る知らぬ人たちに、同情をこわなければならぬまでには、少なからぬ苦労をしてきたことと思われるのでした。
病気のために、働こうと思っても、思うように働けなかったこともあろうし、また、いくら働いても、働いても、親兄弟の世話をしなければならぬために貧乏から脱れられなかったり、その間にどういう複雑な事情があったことかしれません。もし私たちが、そういう世の中の不幸な人にあって、話を聞いてみたら、たいていの場合は、その人に対して、同情をせずにはいられなかったでありましょう。