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あるふゆのばんのこと
ある冬の晩のこと
小川 未明
「婦人倶楽部」1928(昭和3)年4月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,140 字 · 9 页
このとき小さな足音が、すぐ前にしたかと思えば、
「おばさん、花を持ってきましたのよ。これをかいでごらんなさい、きっと今年は、しあわせなことがありますから。」といって、少女は一束の花を女の手に渡しました。
「まあ、なんの花でございますか? 私は、目が見えないが、どんなに、美しいことでしょう……。」と、女はいいました。
「おばさんのような、やさしい、いい人が、いつまでも苦しむなんていうことは、ありませんもの。」と少女はいったのでした。
この少女は、青い空へ、吸い込まれてしまったものか、そのまま音もなく、影を消してしまった。後で、女は、花束の香りをかぎました。それは、春はやく咲く、ヒヤシンスに、フリージアでした。そして彼女は、花の香をかいでいるうちに、ふと弟のことを思い出したのです。弟は外国へいって幾年にもなるが、消息が絶えていました。
「もしかすると、弟が帰ってくるのではないかしらん。」と、彼女は空想しました。
すると、彼女の胸を悲しく、閉じこめていた氷が解けるような気がしました。そして、どこを見ても、まだ冬空であったが、春の風が、町や、木立を吹くような気がしました。