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あるおんせんのゆらい

ある温泉の由来

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,655 字 · 30 页

青空文庫

「僕はあの娘を貰いたいんだが、何んなものだろうね?」

と言い出した。

「君はあの人の身許を知っているのかい?」

「知っている。従妹と同級生だから訊いて見た。兄さん達はアメリカへ行っているんだってね」

「うむ。君のところは豪家だ。出稼人の妹は釣り合わない」

「吐かしたな」

「何を?」

「君のところも旧家だ。荒神風呂の小池といえば、僕の方までも響いている。出稼人の妹を貰うと承知しないぞ」

「貰うものか」

と僕は冗談に断言したが、早川君はあの頃から本気だったのかも知れない。

その話の継続だ。早川君は中島屋の竹子さんを貰いたいから世話をしてくれと言い出した。

「実はね。手近だから君が野心を持っていないとも限らないと思って、その監督かた/″\一年も通ったんだよ」

「念が入っているね」

「野心はないと認める」

「何とも分らない」

「おい」

「ハッハヽヽ」

僕は親父に話して、中島屋の老人の心持を訊いて貰った。中島屋では長男次男の帰って来る望みがない。彼方で農園を始めて、本当の成功はこれから十年二十年の先だ。長女も次女も嫁に行って余所のものになっている。老人夫婦は結局三女竹子さんの世話になるのだから、嫁にやって手放すことは出来ない。