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いしがおごる
いしが奢る
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊仲秋特別号」毎日新聞出版、1952(昭和27)年10月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,304 字 · 45 页
そのとき、お梅がいそぎ足にこっちへ来た。
「お客さまのお家来の方がおいでなさいました」お梅は立ったままで云った、「急な御用だと仰しゃってでございます」
「いないと云っておくれ」いしがそう遮った、「あたしといっしょに出ていらしったって」
保馬は立った。いしは手を伸ばして、彼の袂を捉もうとした。
「保馬さま、お願いですから」
彼はすばやく廊下へ出た。急用という言葉に不吉な予感を感じたのである。玄関には仲田と堀が待っていた。走って来たのだろう、まだ喘いでいたし、二人とも汗だらけだった。保馬は予感の当ったことを知った。
「嗅ぎつけられました」と勘兵衛が云った、「能登屋が知らせてくれたんですが、かれらは宿所を襲う手筈だといいます」
「しまったな、そいつはしまった」
保馬はおちつこうと努めた。
「だが慥かなんだろう」
「間違いないようですね、時刻までわかっているんですから」千之助が云った、「もちろんめあては調書だと思いまして、ともかく此処へ持って来ました」
彼は抱えている大きな包を叩いた。
「押掛けて来るのはどういう連中だ」
「外島が指揮をするそうで、浪人やならず者が十五、六人ということです」