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いわゆるしぜんのびとしぜんのあい

いわゆる自然の美と自然の愛

丘 浅次郎

「時代思潮」1905(明治38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,029 字 · 16 页

青空文庫

蟻や蜂のごとき動物では力を協して団体のために働くという本能が十分に発達しているゆえ、各個体の生れながらになす所業はすべて団体の維持繁栄に適するようになっているが、人間ではこの本能が未だはなはだ不十分であって、ただ捨て置いては上下こもごも利を征めて国が危くなるゆえ、人為的にこれを補わねばならぬ。そのため昔から自己を愛する心を広げて自己を愛するごとくに家を愛せよ、家を愛するごとくに国を愛せよという教えができて、愛の範囲が広いほど尊いとの感じが生じたのであろうが、宇宙万物を愛するを最高の徳のごとくに思うのは、この傾向が盲目的に正当の範囲を超えて、その外までも脱出した結果である。一方へ曲った棒を真直に直すには反対の側へ曲げるつもりで力を入れねばならぬごとく、極度の利己心に司配せられている人間らを教えるためにはその反対の端まで引く位のつもりでなければ、ちょうど適当の所まで来ぬゆえ、子供や無智の輩に向うては極度の博愛を説くことが必要の場合もあるやも知れぬが、宇宙万物を愛するまでに広げた博愛は、それ自身のみについていえば全く以上述べたごとき性質のもので少しも尊いことはない。