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うすゆきしょう

うすゆき抄

久生 十蘭

「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页

青空文庫

大炊介が入谷津の荒田のそばへ帰ってきたと知ると、さっそく気をそろえて組をつくり、そこは夜目遠目のきく闇の精のような氏族で、のみならず、早乗りにかけては及ぶものがないという名人ばかりだから、毎夜、鷹巣から城山の尾根づたいにやってきて、月明りをたよりに畑仕事をし、夜のひきあけと同時に風のように帰って行く。こちらの迷惑も察せずに、乱破好みのやり方で、律気な合力に凝りだしたものなのであった。

蘆屋道益は二十隻近くの手船を、毛剃九右衛門のような船頭と胆に毛の生えた上乗に差配をさせて、呂宋、媽港のあたりまで押し出させる一方、北条の運漕までも引受け、日に一度は川口の船屋敷へ出張して上荷積荷の宰領をしていたが、夏も終って、川口に白々と秋波が立つ頃になると、船溜にいる船頭や水子が、このごろ谷津の斜面にあるお邸の高楼に、一晩中、南蛮蝋燭の火がついているので、夜船の湊入の都合がよくなったと、道益の顔さえ見ればお世辞をいうようになった。

入津の山の中段から上は、邪魔な灌木一本ない岩石まじりの斜面で、懸崖の端にどっしりと立ちあがっている三層閣の上層、四方窓の高居間から、さなきだに光力の強い南蛮蝋燭の灯がかがやきだしているところは、誰の目にも、夜船の湊入りをみちびく燈明台といったおもむきに見える。