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おじさんのはなし

おじさんの話

小山 清

「新潮 第五十巻七号」新潮社、1953(昭和28)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,232 字 · 42 页

青空文庫

そして出来たやつを、これも道で拾った空箱に詰めて、晩飯時になった食堂へ出かけて行くのである。五時頃から七時過ぎまでいると、かなり商売が繁昌する。おじさんは煙草一箱につき拾円儲け、また外食券一枚につき二円儲けた。煙草は一箱買う人もあり、また三本くれという人もあり、また一本だけ買う人もあった。おじさんよりは少し年の若い、やはり年寄の人が、「食券二枚に、煙草を一本くれませんか。」と云っているのを見た。その人は食後の一服をすると、おじさんに「おさきへ。」と挨拶して出て行った。おじさんの生活方法は、これをしも闇と云わなければならないかも知れないが、私には全く非難の余地がないように見えた。おじさんは日曜日には、蠣殻町の方が休みなので、上野の山まで足をのばして、素人野球を見物して時間つぶしをしているようであった。大工さんの家には、努めてただ寝るだけにしているようであった。あるとき私はこんなおじさんにさえ借銭の申込みをした。私にはおじさんから不機嫌な顔をされ断られても仕方のない弱身があるのだが、おじさんは私の申出を容れてくれた。おじさんはかつて私がおじさんを騙したことを、忘れているかのように見えた。