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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

「おねえさまに静かにして下さるように仰しゃってよ、お母さま、あの声ぴんぴんして、頭に響いていやだわ」

「そんなことが云えますか、そんなに響くほどじゃないじゃないの、小姑根性とか鬼千疋とか、すぐに云われるのはそういうことなのよ」

「だって節子が寝ているのを知っている筈でしょう、この家の人になればこの家の者のことも少しは考えて頂きたいわ、おねえさまがいらしってからお母さまもお変りになったのね、節子のことなど誰も心配して呉れる者はいないんだわ」

「そんなことをお云いだってあなた、……節子さんは神経を立てすぎるのよ、そんな、母さんがあなたのことを考えないわけがないじゃないの」

「わたくし尾花沢へいくわ、春になって雪が消えたら、どんなことしたって」

節子は母からそむいて、涙をこぼしながら云った。

「お父さまやお兄さまがどんなに反対なすったって、道があけて、動けるようになったら、わたくし独りで尾花沢へゆくわ」

母の気心が変ったと云ったのは、もちろんそのときのはずみである、暢気でものにこだわらない母は、節子の病気にもさしておろおろするようすはなかった。嫁に対しても同様である、気にいっていることは慥かだが、とくべつひいきするというわけでもない。