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おばなさわ
おばな沢
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页
尾花沢からは定期的に城へ連絡があるらしい。英之助の手紙は、そのとき使いの者が届けるので、ときには山の珍しい花なども添えてよこした。
「むかしから、戸田にはそういうところがあった、少しいやみだね」
兄の泰馬が、いちどその花を見てこう云った。そばにいた母が不審そうに、いつものおっとりした口ぶりで、
「いやみなことはありませんよ、節子はまだ病人で寝たり起きたりしているんですもの、戸田さんがおみまいに花を下さるのはあたりまえじゃないの」
「それにはそれでやりかたがあるんですよ、しかし、……まあいいでしょう」
「お兄さまの仰しゃりたいことは、節子にはよくわかっていますわ」
節子はわきを見ながら云った。
「――お兄さまはこの花の贈りぬしがお気にいらないのよ、これが戸田さまでなく、べつの方ならそんなふうには仰しゃらないでしょう」
泰馬はこっちを見た。へんにむきな眼つきであったが、そのまま気を悪くしたように立っていった。暢気な母はかくべつなにも感じないらしかった、けれども節子は神経が苛いらし、自分の顔が硬ばってくるのが自分でわかった。
兄は英之助を嫌っていた。節子はそう思っていなかったが、戸田との縁談がきまってから、そのことがはっきりしだした。