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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

「こんどの出張で、特にこれだけお手許からさがったんです、ほかの者には知れぬようにということですから、どなたにもないしょで預っておいて下さい」

「でもそれは、お家のほうへお預けなさるのが本当ではございませんの」

「いやあなたに持っていて頂きたいんです、今後もときどきさがるらしい話しでしてね、実を云うと母には浪費癖があるんですよ」

英之助はあまえるように眼で笑った。

「――いつかあなたが戸田へ来て下さるときまで、あなたの手で預っておいて貰いたいんです。またさがったら持って来ますから、しかし誰にも話さないように願います」

節子はその二十五金の包みを、自分の用箪笥の中へしまった。

英之助が尾花沢へ去ってから、節子は預った金にふとこだわりを感じた。彼には母親と十七歳になる昌次郎という弟がいる。戸田は物頭格で食禄も多くはない。彼は節子との結婚で、その点をかなり気にしている。節子がぜいたくにそだったからというのではなく、節子を愛するために貧乏をさせたくないというのである。

この金を預けたのもそういう気持から出たことであろう、同時にそれで自分の誠意を示し、節子の心を絶えず自分につないでおこうという、彼らしい弱気な考えの含まれていることも、これまでの経験で節子にはよくわかった。