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かんかんむし
かんかん虫
有島 武郎
「白樺」1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,483 字 · 23 页
篦棒奴、娘が可愛ければこそ、己れだってこんな仕儀はする。あれ程の容色にべらべらしたものでも着せて見たいが親の人情だ。誠カチヤを女房にしたけりゃ、金の耳を揃えて買いに来う。それが出来ざあ腕っこきでグリゴリー・ペトニコフから取り返しねえ。カチヤだって呼吸もすりゃ飯も喰う、ぽかんと遊ばしちゃおかれ無えんだから……お前っちゃ一体何んだって、そんな太腐れた眼付きをして居やあがるんだ」
とほざいてくれると、イフヒムの野郎じっと考えて居やがったけが、
と語を切ってヤコフ・イリイッチは雙手で身を浮かしながら、先刻私が譲った座に移って、ひたひたと自分に近づいた。乾きかけたオヴァオールから酸っぱい汗の臭いが蒸れ立って何とも云えぬ。
云うにゃ、
と更に声を低くした時、私は云うに云われぬ一種の恐ろしい期待を胸に感じて心を騒がさずには居られなかった。
ヤコフ・イリイッチは更めて周囲を見廻わして、
気の早い野郎だ……宜いか、是れからが話だよ、……イフヒムの云うにゃ其の人間って獣にしみじみ愛想が尽きたと云うんだ。人間って奴は何んの事は無え、贅沢三昧をして生れて来やがって、不足の云い様は無い筈なのに、物好きにも事を欠いて、虫手合いの内懐まで手を入れやがる。