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がん

がん

小川 未明

「民政」1934(昭和9)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,900 字 · 6 页

青空文庫

若いがんたちが、狭い池の中で、魚をあさっては争っているのを見て、年とったがんが歎息をしました。

「なぜ、こんなところに、いつまでもいるのだろうか。」

これを聞いた、りこうそうな一羽の若いがんが答えて、

「おじいさん、どこへゆけば、私たちは幸福に暮らされるというのですか。この池へおちつくまで、私たちはどんなに方々の沼や、潟を探索したかしれません。けれど、どこにもすばしこい猟犬の鳴き声をきくし、狡猾な人間の銃をかついだ姿を見受けるし、安心して、みんなの休むところがなかったのです。そして、ようやく、この禁猟区の中のこの池を見いだしたというようなわけです。」と、老いたるがんに向かって、いいました。

「そのことは、私にもよくわかっている。だから、人間がめったにゆかないところを探すのだ。もっと遠い、寒い国へ向かって旅立ちをするのだ。私がまだ子供の時分、親たちにつれられて通ったことのある地方は、山があり、森があり、湖があり、そして、海の荒波が、白く岸に寄せているばかりで、さびしい景色ではあったが、人間や猟犬の影などを見なかったのだ。あの記憶に残っているところを、もう一度探しに出かけるのだ。