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がん

がん

小川 未明

「民政」1934(昭和9)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,900 字 · 6 页

青空文庫

「ここから、北へ、北へと飛んでゆけば、その地方へ出られるような気がする。ゆくなら今夜にでも、すぐに立とうではないか。」といいました。どのがんも、これに対して不平をいったり、反対するものはありませんでした。みんなは、月の光を浴びながら、めいめいつばさをひろげて、羽ならしをしていました。そして、拍子を合わせて、二度、三度羽ばたきをしました。これから、長旅に出かける前のあいさつであります。

つぎの瞬間に、彼らは、空へ舞い上がりました。そして、池の上を、なつかしそうに一周したかと思うと、ここを見捨てて、陣形を造って、たがいに鳴き交わしながら、かなたへと消えていってしまったのであります。

年とったがんが、彼らの先達でありました。つぎにりこうなSがんと、勇敢なKがんがつづきました。そして、しんがりを注意深いBがんがつとめ、弱いものをば列の真ん中にいれて、長途の旅についたのであります。

冬へかけての旅は、烈しい北風に抗して進まなければならなかった。年とったがんは、みんなを引き連れているという責任を感じていました。同時に若いものの勇気を鼓舞しなければならぬ役目をもっていました。