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このころのこうたいしでんか
この頃の皇太子殿下
小泉 信三
「文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,512 字 · 9 页
また、電蓄の方の函の上には熱帯魚のガラス水槽が置かれ、水藻が青く電光に輝いている。更に一つの壁は書棚で、大部の和洋の全集叢書事典類が収められている。私はお許しを得て時々そこで「ブリタニカ」を開く。この部屋の特色は、その東南隅から突き出した二坪ばかりの一角で、そこは二方の窓から、日光が入り過ぎるほど入る。殿下とご一緒に本を読んだり、お話をしたりするのも、何時かこの一隅でするようになった。元はお部屋の中央で机をへだてて相対し、私の後ろに黒板を持ち込んだようなこともあったが、もっと楽な姿勢で、ノンビリお話し致しましょう、ということで、この一隅の安楽椅子または長椅子に座を占めるようになったのであった。
読む本で一番長く続いているのは、英人サア・ハロルド・ニコルソンの「ジョージ五世伝」だが、福沢諭吉の「帝室論」を読むために、殿下も私も、それぞれ福沢全集の一冊をこの一隅に持ち込んだこともある。露伴の「運命」を、岩波文庫本で読んだこともある。近頃は、新聞の日曜版に出る週間サムマリイをテキストにして、前週の時事についてお話しし合うことになり、私は定日である毎火曜日の午後、自宅から、必要な新聞紙一枚を携えて行くことにしているが、殿下は、御自分で常侍官候所に往き、そこの新聞掛けから必要の綴じ込みを片手に提げてお出でになるの