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そのとし
その年
宮本 百合子
「宮本百合子選集 第五巻」安芸書房、1948(昭和23)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,964 字 · 28 页
今まで源一に召集がかからなかったというのが寧ろ不思議なくらいであった。軒並と云ってよいくらい出ている。その中で一度一度と召集に洩れると、かえって妙な不安で母親までも何だか落付かない工合であった。その晩も、隣村の同年兵のところへ赤紙が来たという知らせで、そっちへ出かけていた間に源一の召集もかかったのであった。
十五日の朝、広治は明けがたの三時に家を出た。昼すこし前電報が配られて来た。
ゲ ンキニテゴ コ三シタツ
店先に立ったままその電報をひらいて読むと、お茂登はそこにある広治の板裏草履をつっかけて、向いの家へ行って見せた。それから仏壇にお燈明をつけて、その電報を供えた。亡くなった父親は、日清、日露と二度戦争に出て、米穀の商いにも「作戦アリ」という言葉をつかうような気風の男であった。
兄のお下りの紺背広が揉くしゃになったような恰好で広治が、丁寧に巻いた紙の日の丸小旗をもって帰って来たのは、暗くなって大分してからであった。靴の紐をときながら、彼はうしろに来て立っている母親に、
「元気なもんで※(感嘆符二つ、1-8-75)」
と、亢奮のほとぼりの残っている声の調子で云った。