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そのとし

その年

宮本 百合子

「宮本百合子選集 第五巻」安芸書房、1948(昭和23)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,964 字 · 28 页

青空文庫

ひところは一本三十五円ぐらいだったタイヤも倍ほどに騰貴した。

「ひとりか? 作はどこで?」

「眠っとる」

余りうまくもない口笛を吹きながら、広治は体の痛い風もなくジャッキを動している。お茂登は、背戸の柿の木の下へ何度も往復しながら薪を乾した。

「あす、山田の帰りには、忘れんこと炭積んで来ることで」

「ああ」

薪を並べてしまうと、お茂登は車庫の三和土へ来て、広治のわきに蹲んだ。

「どれ、そこ持ってやろ」

「もちっとこっち……うん」

暫く一緒に手伝っていたお茂登は、やがて、

「広ちゃん、お前、こないだの友さんのハガキどこにあるか知っとるか」

ときいた。

「状差しにあるだろう」

「なあ、広ちゃん」

お茂登は蹲んだ足の上で体の重心をおき代えるように身じろぎして、凝っとタイヤに目を落したまま、云った。

「もし友さんが来れるようなら、おっ母さんは、お前らが出てもこの商売ずっとつづけて見ようと思う。どうで? その気になって、儲けさえ焦らなんだら、やっては行けそうに思う」

三年ばかり前に源一が入営中働いていた友三という運転手が、最近トラックの徴発で体が空いた。もし今井で使って貰えればと、ハガキをよこしているのであった。