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そのとし
その年
宮本 百合子
「宮本百合子選集 第五巻」安芸書房、1948(昭和23)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,964 字 · 28 页
「いいか、これは重要なもんで。二階の棚にしまっておいて呉れ。お前が責任もって保管して呉れ、わかったな」
などと、トランクの整理にとりかかった。自然、お茂登親子はそこからなるたけ離れたこっちの窓際にかたまって、声も低く、
「今のうち、これ見ておき。足らんもんでもあったら、買うて来にゃならんけ」
膝の前に、持って来た風呂敷包みをひろげるのであった。
親子が初めてさし向いになったのは、夜も七時過てであった。隊に送別会があると云って永田が出かけ、弟妹たちは駅へ着く両親を迎えに行き、ひとしきり揉まれた部屋の空気がやがてしずまると、かすかに花の匂いの流れるような五月の夜気が、濃く柔かく窓外に迫った。源一は、酒気を帯びた額に明るい灯をうけながら、胸をすっかりひろげた軍服のままのあぐらの膝に片肱つき、妻楊子を歯の間で折っている。時々その顔をくしゃくしゃと動かして、鼻の下をこするような手つきをするのを見て、お茂登は、二つ折りにした座布団を押してやった。
「何ならちいと眠ったらどうで……時間を云えばおこしてやるで」
「なに、大丈夫だ」
そう云ったら気もぱっきりしたという工合で、源一は、