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あじさい

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集

佐藤 春夫

佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页

青空文庫

な醜い肉塊のような顔ではなく、色も蒼白に、目鼻立も一人まえの成人のようなくっきりとした相貌を見せてただ眼だけは外界の光をまぶしがるかのように細めているのであった。女の子だけに母親によく似た顔立ちだなあとわたくしはこの子の顔を深く印象にとどめながら遂に云った。

「自然の成り行きに委ねてください。死産であったとでもあきらめましょう」

「それがよろしゅうございましょう」と医はほっとしたような調子で答えた。

わたくしはこういう子供の生れたわけを考えてみた。そうして思い当った。先年生れた男の子が生後二十一日目から小児脚気を病んで久しく全快しなかったため、今度の子は受胎ののち、心労による母体の衰弱で栄養が十分でなかったのが胎児に影響した結果ではなかろうか。などと考えているところへ、家内の兄も出産と聞いて駆けつけて来た。

家内の兄は西郷南洲によく似た風貌の偉丈夫でありながら、ごく気の弱い人で、この子を一眼見るとなさけない表情を正直に現わして眼をしばたたいているのであった。彼は何時間生きるかわからないという嬰児を悲しみつつも産婦たる妹の無事を喜び、またわたくしの失望を慰めてくれた。