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あじさい

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集

佐藤 春夫

佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页

青空文庫

その代り時々ここへ遊びに来て自分の部屋同様に使うことにしよう。そのうしろの八畳というのは自分の部屋のすぐ上に当るところであるがこれも表ほどではないが、梧桐の梢を南の窓に見る悪くない部屋であった。これは冬になったら好もしいに違いない。夏は池田の部屋をそうして冬は東のこの部屋をわが物顔に使う特権を自分は身勝手に決めた。石垣はわが身に迷惑のかからぬ事だけにすぐ賛成の意を表したばかりか、彼等には石垣から然るべく申込んで置くとさえいうのであった。最後に行ってみたのは階段の上り口に近い石垣の部屋であった。北と西とに窓を持った六畳であった。彼が机を据えた窓の外には富士山が小さく見えていた。石垣は俗っぽいショオもない山だと吐き出すように言った。自分は石垣の机の側に座を占めて、彼を相手に旅の話などをして聞かせて、皆がそれぞれ自分よりいい部屋を決めてしまっている不平などをなるべく言わないでいた。人のいい姉が石垣にでも言いくるめられて悪い部屋を押しつけられ、どうせ荷物を入れるのだからどこでもいいことにしたのであろうと思った。それにしても自分の部屋の陰気さが今だに頭にしみ込んでいて消えないのは不思議であった。