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あじさい

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集

佐藤 春夫

佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页

青空文庫

おかしいなおもうて、池田の奴でもフラフラしおって、下の後家さんのとこでも忍んで行くのに様子伺って置いて行きやがったのかいな思うたりして、朝になってからゆうべ誰ぞ僕の部屋のぞいてから便所へ下りたものないか尋ねて見ましたけど、誰もそん者ありゃしまへん。そうか。そやったらついそんな気したのや言うてすましましたけど、ちとへんでした。へえ、その晩きりです。」

石垣とそんな話をした翌日だか翌々日だったか忘れたが、やはり夕方まで雑談をしていてから急に皆を誘うて散歩に出ようという気になった。この間迎えに来てもらったお礼をせずにいたのを思い出して一緒にビール位飲もうかと思い立ったのである。浴衣でも着かえ直そうと思って自分の部屋へ行った。夏の夕方、外はまだ明るくて部屋の内は暗くなっている時刻である。つかつかと自分の部屋へ突進して行った自分は、南側の障子の外に何やら黒い影がさしているに気がついて、その方へ進んで行って障子を明けて窓の外を確めてみた。出窓のようになっている外枠の上にぶらさがっているものがある。正体を見きわめるひまもなく自分は部屋を飛び出してしまった。浴衣を着かえるどころか明けた障子を閉めるだけの余裕もなかった。