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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页
しかも夜中にである。前の輪を二つにへし折って仕舞って、もう乗れなくして、自分は人力車で帰って来た。何でもやはり用事があって遠乗りをして、その帰りがおそくなった。ランプの用意がなかったけれど、あまりいい月夜だったので乗って来たのだそうだ。すると或る小さな板橋のところへ来て自転車の前の輪が板と板との隙間へ這入って仕舞った。うろたえてハンドルをこぜた機みに輪が折れたのだそうな。板と板との隙間を、それが黒くなっているのは知っていたがついうっかり月の光で橋の手すりの影がうつっているものと思い込んでいたのだと言うことであった。それでも私の父には怪我はなかった。
ところが、或る朝、私が学校へ行って見ると――前にもいうとおりもう二十二三年も前のことで、私がまだ八つぐらいだったから小学校の二年生ぐらいの時である。冬であった。私はその朝、滝のある山の近所に住んでいる子供から垂氷を折って来てもらう約束があったので、いつもより早く起きて早く学校へ出かけた。そうして運動場の石垣へよりかかって日向ぼっこをしていた。すると一人の私より二つほど年上の子供が私のそばへ寄って来た。