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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页
坊やの方はやっぱり傷痕がのこっちゃったですね。あれはあのままいつまでも消えますまい。学校で体格検査のある毎に、『君はトラコーマをやったね』と云われなければならないよ、初雄君は」
F君は手拭でふいていた片手を子供の頭にのせて軽くゆすぶりながら、そう云っていたが、やがてタオルを捨てて診察室から、すぐ奥につづく住宅の方へ入って行きながらふりかえって、
「坊や、わざわざ遠いところへ来てくれたのだから、またお茶とカステラを上げよう。いらっしゃい」
こう呼ばれて、初雄は大叔父の顔をうかがいながら、どうしたものかと相談がおにためらっているのを、F君は今度は直接自分に、
「先生、どうぞ。ちょうどお目にかけるにいいようなものが床の間に出て居りますから、是非」
と如才なく誘い込まれた。食堂を通り抜けて、奥の座敷兼主人の書斎に通って来てみると、食堂に用意されてあったお茶とお菓子とは手早くF夫人によって座敷に運ばれて来た。F君は座ぶとんをすすめながら床の間を指さして、
「季節はずれですが、昨晩ふと思い出してかけて見たのです。もとはお寺か廟にでもあった対聯の片破れでしょう。満洲で親しくしていた満人がこれを秘蔵していましてね。