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なつかしまれたひと

なつかしまれた人

小川 未明

「童話」1926(大正15)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,245 字 · 11 页

青空文庫

そして、みんなからも、だんだん忘れられていこうとしました。

かれこれ一年ばかりもたってからのことです。会社で働いている一人の若者が、ある日、町から五里ばかり、東の方へ離れている街道を貨物自動車で通ってくると、勘太じいさんが、ここに働いていた時分のようすそっくりで、とぼとぼと街道を歩いているのを見たといいました。

おじいさんを知っている人々は、この話をきくと目をみはりました。

「それは、人違いだろう……。おじいさんは、息子が迎えにきて、新しい着物にきかえて帰ったのだから、また昔のようすにかえるというはずがない。」と、あるものはいいました。

「いいや、勘太じいさんに相違ない。俺は、よほど、自動車を停めて、声をかけようと思ったが、急いでいたものだから、つい残念なことをしてしまった。」

「おじいさんを見て、自動車を停めないということがあるものか?」

「しかし、おじいさんなら、困れば、またここへやってくるにちがいない。」

「いや、ああしていったん帰ったのだから、きまりわるがっているのかもしれない。人間の運命というものは、いつまたどんな境遇にならないともかぎらないからな。