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なつかしまれたひと
なつかしまれた人
小川 未明
「童話」1926(大正15)年3月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 5,245 字 · 11 页
もう、やがて春になろうとしていたが、まだ寒い風が、野や、林を吹いていました。雲切れのした、でこぼこのある田舎道を貨物自動車は、ちょうど酔っぱらいの人の足どりのように、躍りながら、ガタビシといわせて走っていたのでした。たぶん、ある家の引っ越しででもあるとみえます。車台の上では、机が、いまにも道端へ飛び出しそうになるかと思うと、箱が、いまにも転げて落ちはしないかと見られましたが、それでも、それらは、車にしがみついて乗せられたまま走っていました。ちょうど、そのとき、なにかしらない別のものが、道の上に落ちたのです。自動車は、そんなことには気づかず、そのまま走り過ぎてしまいました。そして、さびしい道には、だれも見ているものはありませんでした。
車の上から、落ちたものは、勘太じいさんの会社を出るときまで身につけていた、半纒と股引きと帽子でありました。おじいさんが、ひとまとめにして、荷の上に乗せておいたのが、そのまま走り出して、ついに振り落とされたのであります。
日暮れ方を告げるからすが、あちらの林の方で鳴いていました。
町の会社では、その後、みんなが思い出しては、勘太じいさんは、どうしたであろうとうわさしましたけれど、おじいさんからは、そののち、なんのたよりもなかったのです。