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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

それから東国へ下る人があったら、必ず手紙をくれるんですよ。ああ、だいぶ遅くなってしまった。山科の里では供奉の者達がさぞや待ちかねていることだろう。では、文麻呂。さらばじゃ!

文麻呂 さようなら! お父さん!

石ノ上ノ綾麻呂、左方へ下りて行く。退場。

文麻呂。独り中央丘の上に残る。

あたりには夕闇が立ち籠めている。………

文麻呂は傍の木の切株に腰を下ろして、冥想に耽り始める。………

遠近の広大な竹林の竹の葉のざわめく音が無気味に響き渡りはじめる。………

文麻呂ぎょっとして後をふりみる。

風。………そして、時折、山鴿の物淋しげな鳴声がし始める。

文麻呂 (独白)風か!………

文麻呂は何やら急に耐え難い孤独感に襲われるのであった。懐より横笛を取り出して、親しい「曲」を奏し始める。澄んだ笛の妙音、風に伝わって、余韻嫋々………舞台、しばらくは横笛を奏する文麻呂。

文麻呂、突然、何か不思議な予感に襲われたもののように唇からふと横笛を離す。耳を澄ます。――どこからともなく、こだまのように同じ曲が響いて、………消える。

文麻呂、不思議な笛の反響を解せぬ態度で、もうひとしきり吹いて、再び突然、唇から笛を離してみる。